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導入のすすめ

谷川渥氏  美学者

著書に「形象と時間」、「鏡と皮膚」、「廃墟の美学」、「芸術の宇宙誌」
「美学の逆説」、「肉体の迷宮」、「幻想の花園」他多数

 

ちさ細江 世には画家や彫刻家がおびただしく存在し、そしてあくことなく作品制作が続けられている。しかしそうした作品のうちわれわれの眼に触れるのはほんの一部である。美術館に収められたり私的に購入されたりするものもあれば、画廊の壁に束の間掛けられたり床に置かれたりしたとしても再び作家のアトリエや倉庫に帰り、誰の眼にも触れることなくひっそりと眠っているものもある。人の眼に触れているか否かが、しかし必ずしも作品の優劣に直結するわけではない。眠れる作品のなかにも、きっときらりと光るものが含まれているに違いない。作品というものは、いかに孤独に自己のうちに閉じこもっているように見えても、必ず人に認知され評価されることを希求している。それはおのずから他者を求める存在なのである。

 中村氏の押し進めようとしているアートレンタルプログラムは、従来の美術館や画廊を中心とする美術のサーキュレイションに新たな一石を投じる可能性がある。公私による購入とは違ったかたちで作品が人の眼に触れる機会を増大させるだろうからだ。作品を眺める機会をもつ人々のみならず、自分の作品を多くかかえている作家たちにとっても、このプログラムが軌道に乗れば、朗報でないはずはない。なによりもそれは作品を生かすことになるだろう。

 もとより、問われるべきは、作品の質であり、そして作品を選ぶ眼である。このプログラムがそれらを高める一助となることを期待したい。

故村田慶之輔氏 川崎市・岡本太郎美術館 元館長

岡本太郎の挑戦の思想を実践的に活かそうと図る、美術界のご意見番

 

羽賀洋子「植物の形相 HASU 06-3」 194×162cm

羽賀洋子「植物の形相 HASU 06-3」 194×162cm

 画家は職業だろうか。たしかに絵を描いて生計を立てる生産者といえる。しかし、この生業は容易でない。絵が少しも売れなかったゴッホなど非業の天職か。幸い日本では、お墨付きの絵描きがいたり、美大教授と聞くと立派な絵描きと思う甘い世間がある。けれども、世間に向かって自分を画家ですと気おくれせずに言える画家は、そう多くはないはず。

 この画家たちは厳しい条件下で何とか自身のメッセージを発信し伝えたいと願っている。その優しい、ときに鋭い絵言葉と、どこかでそれを必要としている人たちとを相通わせようとする橋渡し役が、ここにいる。そのシステムアリカの中村章さんの仕事を僕なりに理解してみると-

 まだ美術館という場はよそよそしい。それにくらべて、画廊は絵の売買を伴うだけ、ずっと開かれている。でも絵のリースには至っていない。画家にはこの収入も助かる。一般の人には日頃、緊張感のある職場や他人同志行きかうロビーで、ふと見やる絵との何気ない親和感が癒しやはげましにつながる。さらに、もともと絵の効能など計測できないものだから、絵を購入したり借りたりする側は不安気味でつい勘定高くなりやすい。そこらも親和力に助けを頼もう。そのためには、橋渡し役の絵を見る眼はもちろん、絵は人だから人を見る眼が要請されるが、中村さんは時々、相手の許に当の画家を同道する。するとお互い〈異界〉の発見やふれあいが得難いものを心に残す。

平野米三 「日輪」 200×230×30cm

平野米三 「日輪」 200×230×30cm

 岡本太郎というマルチな変な芸術家は、職業は何かと訊かれて、どうしてもというなら人間ですかね、と答えた。画家も企業人も所詮人間稼業。絵が美術館に入ったら永く残るから、それに越したことはないが、中々厄介だから、いっそ企業に人間味あるギャラリー空間を実現して貰うのがいいだろう、とシステムアリカは問題解決のありかを考える。僕もそう思う。

木嶋正吾氏 画家 多摩美術大学教授

パブリックアートを多数制作 若き美術家の育成に貢献

 

木嶋正吾「零度6-3」 91×182cm

木嶋正吾「零度6-3」 91×182cm

 美術作品は人類には無くてはならないものであり、心にも身体にも元気を与え安らぎを与え生きる力を与えてくれる。殺伐とした現代社会に於いて人間性の回復が叫ばれる昨今、芸術の果たす役割は益々大きくなっている。

 近年、職場環境に本物の美術作品を置けば社員の感性を刺激し又、心も安らぐのではと考え作品を社内に展示収集する優れた経営者が現れ、めざましい発展を遂げる企業が出てきていることを聞くと、我々美術に携わる者には大きな励みとなり心強く思う。

個展風景

個展風景

 しかし、それは極めてまれなケースで、依然として我が国の美術への理解は良好とは言えない。特にアートを育てる国の政策や税制に於いて我が国の状況は欧米に比べればまだまだ不十分で、アートビジネスに関しては開発途上国と言われても仕方のない程の厳しい現実がある。かつてジャポニズムの名を世界に轟かせ尊敬を集め高いレベルにあったこの国の美術が、未だにこのような状態にあるのは大変残念であり、これから様々な可能性があるにしても、いつまでもこのままで良いとは思わない。これから画家をめざす若者達のためにも夢を持てる日本になるよう心から切望している。

 中村章氏は、そんな日本の現状に対して臆することなくアートレンタルプログラムを立ち上げ芸術文化への支援事業を続けている。これからも芸術家と社会の橋渡しとして益々の活躍を期待したい。

 

芝章文氏 美術家 NPOアート農園 代表

旺盛な制作意欲、アートによる社会貢献を目指す熱い心!

 

芝章文「天明-200688」 130×220cm

芝章文「天明-200688」 130×220cm

 美術や芸術というと一般的には、他人の視点が気になったり、妙に構えてしまったり、自然体でアートに接することがひじょうに難しい領域なのではないでしょうか?本当の自分は一体どんな作品が好きなのか、どんな作品を求めているのか、意外とわかりかねている人が多いように思います。しかし作品を見出す目は誰にでも備わっています。 本当に好きな作品に出会うためには、とにかくたくさん見るしかありません。つくり手も同じように、自分自身がつくる作品は少なくとも自分が好きな作品であるようにと願い、日々制作に取り組んでいます。

 見る側とつくる側の幸福な出会いを提供してくれるシステムアリカのレンタルプログラムは、我が国においては大変困難な「文化支援」という分野に画期的な実践力を導入し、得難い成果をあげています。私たちの日々の生活のなかでアートの癒しがどれほど心を豊かにしてくれるか、活力を与えてくれるか、その恩恵は計り知れないものがあります。この世の中に感動する出会いは山ほどありますが、美術作品と向き合う度に得られる静かな感動は独特の喜びをもたらしてくれます。

展示風景

展示風景

 またこのプログラムと平行して、少し社会性を欠いたつくり手と現代社会のストレスに疲れた観者の心のふれあいをワークショップという手法を用いながら、巧みな演出で互いの理解を深めていく人的交流もシステムアリカの魅力的なプログラムのひとつです。 実際に作品を提供させて頂き、ワークショップ講師として参加させて頂くなかで、私自身も本当に多くのことを学びました。見る側とつくる側の遠くて近い関係を今後もさらに深めて頂きたく、微力ながら応援していきたいと思います。