石井博康
近年、私の絵画に繰り返し立ち現れる、垂直に落下もしくは上昇する表象。どうしてこのようなものに囚われるのか、なかなか説明がつかなかったが、制作を繰り返すうちに、画面の向こうにいつも一つのイメージが姿を見せることに気付いた。それは子供の頃、故郷の高梁川の橋の上から飽かず眺めた川面の光景のように思われた。真下に見える川面にたゆたう光、水面を透過して見える川底の石や水草はゆらゆらと揺らめきながらも、その位置を変えることはない。しかし膨大な水量は川上から川下へ絶えず移動し続けるのだった。
今、私の絵画を特徴づけているレイヤー(層)とドットは、この原体験と深い繋がりがあるように思えてならない。たとえば、垂直に落下もしくは上昇する表象と、画面上を規制するドットとの関係を、流動する水の層と川底に留まる無数の石などと重ね合わせることもできよう。ただ、絵画の問題はそのこととはまた別の地平にあり、そう単純に納得するわけにはいかない。しかし、留まるものと流動するもの、それによって生じる摩擦と揺らめく空間の層が作り出すイリュージョンは、いま私が見たい世界の一つであるには違いない。
美術家 石井博康
弊社発行「ART FRAGMENTS」第28号掲載
「大地をはがす」とういうFRPを使った立体作品を精力的に制作していた時代から油画に移行して十数年。キャンバスに刷毛で絵の具を何層も何層も滑らすように重ねていく。その中に短く強く、ある時はたたきつけるようなストロークが絡んでいく。物質性と筆跡の身体性が作品の強度の源である。画面の上で生成的に混ぜ合わされつつある、しかし混ざりきらない色と形。それは観るものに即断を許さない。視線を立ち止まらせ凝視することを要求する。遅れてくる時間、整合性を逃れゆがんでいく空間。そうして手探りするうち、いつの間にか記憶の中を抽象的に彷徨う旅に放り出されるのだ。
1952 岡山県生まれ
1977 東京藝術大学油画科卒業
■ 主な個展
1979 ギャラリー・ヴィヴァン(東京)[83]
1983 ギャラリー山口(東京)[84、86,87]
1988 ぎゃらりぃセンターポイント(東京)
1999 フタバ画廊(東京)[2000、02,04]
2006 色彩美術館<菅原猛企画>(東京)
2010 Gallery 58(東京)
2011 GALLERYとわーる(福岡)
■ 主なグループ展
1988 「板橋INSTALLATION< 花>」板橋区立美術館
1989 「版概念< 過去・現在・未来を採集する版画>展」ギャラリーαM(東京)
1992 「現代美術新世代展-清州・千葉92」国立清州博物館(韓国)中国湖北学院美術(中国、武漢)
2005 「Japan/Wisconsin Arts Exchange」ウエスベンド美術館 (WI,USA)
2009 「表層の冒険者たち-Vol.4」CASO海岸通ギャラリー(大阪)
2010 「それぞれの< 0>2010展」銀座井上画廊
2011 「生まれるイメージ」山形美術館
■ 主な収蔵先
ニッセイ総合研修所(1989)
色彩美術館(2006)他
杜の都・仙台ゆかり : ーーーー
☆ 表示価格は税込です。
☆ 納期は入金確認後のめやすです。